京商のフラッグシップモデルとして長きにわたり世界中のエンジンレーシングバギーユーザーから親しまれ続けている『インファーノ』。そして、最新のMP10はもちろん、歴代のモデルを語るうえで絶対に欠かすことができない存在が金井祐一氏だ。ここではインファーノのデザインから品質管理、性能テスト、さらには世界各国で開催されるレースへの参戦に至るまでをオール・イン・ワンで実践する金井氏にインタビューを敢行。フル新規ともいえるMP10に込めたコンセプトや設計思想などを大いに語っていただいた。
MP9の発売当時と現在で、エンジンバギーのレースシーンはどのような変遷を辿ってきたのでしょうか?
「MP9が発売された2008年に比べると、今はどんどん高性能なタイヤが発売され、空力も少しずつ進化してきています。マシンのスピード自体はそれほど変わっていませんが、コースは10年前に比べるとハイグリップ路面が多くなってきました。カーペット路面や人工芝路面が採用されている電動バギーほど様相は一変していませんが、エンジンバギーでもコースに砂糖入りのウォーターを散布したり、部分的にカーペットを敷いたりしてハイグリップな状況は確実に増えてきています」。
このような変遷を経てモデルチェンジを行ったMP10の開発コンセプトは?
「真っ先にあげられるのが、“ハイグリップ路面に対応できるだけのシャシーに仕上げること”でした。要はタイヤのグリップ力とか、それに対抗できるだけのシャシーっていうのかな。MP9の発売から10年、TKI4に至るまでに細かい変更や改良を重ねてきましたが、この10年間で路面が変わり、いろいろな状況が変わり、タイヤもいいものが出てきて、空力も進化してきている……。このような変化に対して、やりたいことがいろいろと出てきたというのが正直なところでした。TKI4のいいところはそのままに、さらに進化させたい部分が増えてきましたので、それをMP10で具現化したかったんです。
あとは、僕のいつものコンセプトですが、“部品点数は少なく、ネジは1本でも少なくする”ということですね。MP9はとにかく軽いクルマに仕上げることを念頭に置きましたが、MP10では軽量化に関してそこまで重要視しませんでした。クルマが軽くなるとグリップさせるのが難しくなり、それにともなって操縦も難しくなります。ギャップに対しても、軽いクルマはセッティングがシビアになります。だったら、無理に軽くしないで耐久性を高めたり、いかに走りやすいクルマに仕上げるか、といった部分に重点を置いたほうがいいと考えたんです。
何世代か前にMP7.5というクルマがありましたが、個人的にはこのMP7.5の操縦性が好みなんです。万人向けするというか、操縦しやすいというか。MP9はセットがちゃんと決まれば歴代のインファーノのなかで一番速いクルマであることはまちがいありませんが、セッティングを少しでも外してしまうと逆に難しい部分もありました。エンジンバギーのレースは長丁場ですので、そのあたりも考慮してMP10ではもう少しラクに走らせられるクルマを目指しました」。
真っ先に目を惹くのがボディ形状の変更ですが、MP10用のボディでポイントとなる部分はどこでしょうか?
「ボディをデザインするにあたっては“性能はもちろん、見た目もインパクトがある形状にしたい”というところからスタートしました。TKI4用のボディはグリップが悪い路面で抜群のパフォーマンスを発揮しますが、ハイグリップ路面ではフロントウィンドウが立ちすぎていることもあり、フロントがグリグリになって操縦しづらいケースもありましたし、見た目をもう少しカッコよくしたいという想いもありました。
そこで、操縦しやすいハンドリング特性を狙ってフロントノーズに大きく角度をつけ、かつ走行特性に影響が出ない範囲でフロントウィンドウを寝かせてバランスをとりました。電動バギーのようにフロントウイングを採用することも検討しましたが、見た目を考えるとそれはないかなと。サイドポンツーンもTKI4は分厚い印象があるかと思いますが、MP10ではクルマを低く見せたいこともあって、できるかぎり薄くしました。クルマって低いほうが絶対にカッコいいですからね。サイドポンツーン後端に設けたウイングは、ポリカの試作パーツでいろいろと試したうえで形状を決定しました。この部分はリヤのグリップを高めるためのもので、走行テストを始めた当初はもっと寝ていて低かったのですが、ウイングが高いほうが路面にへばりついて走る感じがして、とにかく安定感が高かったんです。
総合的に評価すると、MP10用のボディはTKI4用のボディに比べてオールマイティな特性ではありますが、ダウンフォースが強くて、特にコーナーではへばりついて走っている感じがするほど安定感が高く、ジャンプを飛ぶ時の瞬発力もあって、本当にガラッと変わっています。見た目のインパクトもありますから、MP10ではボディが一番話題になっちゃうかもしれませんね(笑)」
MP10の開発コンセプトを実現するためのシャシーの具体的な変更点とその理由は?
「もっともこだわったのは、シャシーの重量配分です。もう少しラクに操縦できたり、もう少しラクに曲がれるように重量配分を見直しています。重量配分を適正化したうえで、各部の見直しを行っていきましたが、サスペンションはMP9から大きく変わっている部分といえます。MP9ではサスシャフトがφ4.0mmなのに対して、MP10はφ4.5mmに大径化して強化を図るとともに、ロワアームもサスシャフトが通る部分の肉厚を大幅に厚くして強度をアップしました。また、ロワアームに関してはイメージを変える狙いもあって肉抜きを塞ぐデザインにしましたが、肉抜きを塞いだことで強度が上がったり、掃除がしやすくなるなどのメリットももたらしてくれました。
フロントのアッパーアームもAアームからIアームに変更しています。Iアームのほうがジオメトリーをすぐに変更できますし、メンテナンス性にも優れています。でも、それ以上に大きかったのが操縦性です。テストで何回も試してみたのですが、Iアームのほうが操縦がラクでコーナーも走りやすかったんです。リヤのサスマウントもTKI4より5mm長くしました。テストでは1mmずつ変えて試しましたが、5mmのロング化がフィーリング的に一番よかったのでMP10で採用することにしました。
このようなサスペンションの細かい変更にともなって、ダンパーステーもジオメトリーを見直しています。ただ、あくまでも基準にしているのはTKI4です。やはり、MP9の10年間にわたる進化は伊達ではなく、TKI4は本当によく走るし、これを超えるのはなかなか難しいので微々たる調整というレベルで見直しつつ、ダンパーやアッパーアームの取り付け穴はお客さんがセッティングで迷わないように数を減らして最適化を行いました。
MP9よりもリヤ側を2mm延長したメインシャシーは何が何でも軽くしたかったTKI4用から肉抜きを見直し、重量的にさほど変わらなければ強度を上げたほうがいいということで、MP10では適度な軽量化に留めました。ただ、サイドガードはもともと軽くしたかったことと、リヤ側を絞ってシャシーをシャープに見せたかったこともあって新規品を採用しています。そのために、いろいろなメーカーのマフラー&マニホールドを装着して、どこまで絞れるかもチェックしました。本当は、もっと絞りたかったんですけどね(笑)。
シャシーの強度アップという面では、メカプレートも板厚が2.5mmだったTKI4に対して、MP10では3mmに変更しています。ごく稀なケースではありますが、メカプレートの一番細い部分にヒビが入ることもあったからです。でも、メカプレートは複数の箇所でがっちりとビス留めされていますので、ヒビが入っていても気がつかないまま使ってしまう……。だったら、MP10へのモデルチェンジのタイミングで強化したいなって。見た目は同じように見えますが、こういった細かい部分にもメスを入れています。
他にも一体化することでメンテナンス性を高めたスタビライザーのボールリンク、操縦性に大きく関わるステアリングプレート、ステアリングの切れ角アップにともなって形状変更を行った強化タイプのタイロッドエンドなど、変更箇所をあげ出したらキリがありませんが、既存のインファーノユーザーであればMP10を組み立てていて、『ここも変わったんだ』という箇所をたくさん見つけることができると思います。京商のクルマって組み立てていてホッとするというか、『このクルマいいなぁ』と感じる部分が多々ありますが、MP10もそう思ってもらえるクルマだと思いますね。
今回、MP10を開発・設計するにあたり、あらためて“TKI4は本当によく走るクルマ”だということを痛感させられました。先ほどもお話ししましたが、10年の歳月は伊達じゃないなと。だから、TKI4を超えるということは本当に難しいことでした。でも、MP10を名乗る以上はTKI4を超えなければなりませんが、TKI4よりもコーナーの進入がラクになったとか、操縦がラクになったとかーーそういった数字では現れない部分の進化は確実に感じていただけると思っていますし、何よりもMP10のほうが操縦していておもしろいと感じいただけるのではないかと思います」
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